Tor(トーア)ときくとどういうイメージがありますか?
片山祐輔氏は実刑が確定し、Torを使った犯罪者となりました。
このニュースのおかげでTorは一躍有名になりました。
ですが私は学生の頃からTorを知っていました。知人はネットワークの研究室に所属しており、ネットワークを研究している人からしたらオニオンルーティングプロジェクトなんて有名だったからです。
インターネットは米国防総省が予算を割り当てて研究した結果生まれたものです。国防総省が研究の一環として作ったARPA NET(アーパネット)がインターネットの始まりです。いまARPAはDefense(国防)のDがついたDARPA(ダーパ)になっており、日本でいうと防衛省技術研究本部(技本)です。厳密に言うとDARPAと技本は少し違うのですが。
そしてTorもアメリカ軍が関与しています。Torはアメリカ海軍が開発したものです。
なぜ海軍がTorのようなインターネットを匿名で閲覧できるソフトウェアを開発する必要があるのか?という質問はよく受けます。特にITに強い理系の人からよくききます。これを理解するためには少し文系の知識も必要です。
アメリカという国のはなぜ存在するのか、それは西側諸国の価値観を全世界に採用させるためです。
西側の価値観とはなにか?それは「自由主義、民主主義、法の支配」です。アメリカはこれらを守り、広めるのが使命であり、自らもそう思っています。
さて、これらの価値観に従わない国があったとしましょう。そうしたらどうするか。戦争をするわけです。
では戦争をするときどうやって戦うか。
そのとき最初に最前線に出されるのは海軍です。
例えばイラク戦争。イラク戦争はイージス艦からトマホーク巡航ミサイルを発射し、イラクの発電所をぶったたくことから始まりました。まず海軍が発電所と管制塔を叩き、地ならしをします。
そして次に海兵隊が出ていきます。海兵隊は先兵です。海兵隊が上陸し、食糧などを置く陣地を作り上げます。
海兵隊というのは海軍の下にある組織です。
つまり、戦争がはじまるときまっさきに働くのは海軍です。
実は一番戦争をしたがらないのは軍人です。一番戦争をしたがるのは、安全なところにいる文民です。アメリカだったら大統領、日本だったら内閣総理大臣、たとえば先の大戦を開始することを決定した近衛文麿です。こういった人達が戦争をしたがり、戦争を始めます。
軍人は戦争をしたくないわけです。なぜなら自分が死ぬかもしれないからであり、仲間も死ぬかもしれないからです。それは誰だって嫌なわけです。
ならば戦争を回避できるのが一番いい。西側の価値観である民主主義を採用しない独裁国家を叩きたいが、戦争はしたくない。どうすればいいか。
それは、その国の国民が自由に言論し、独裁国家を倒すことです。つまり外部から戦争で民主化刷るのではなく、内側から民主化をする。
でもその邪魔をするのが共産主義を採用する独裁国家です。ソ連も中国も電話は全て盗聴され、報道も全て検閲、中国を批判する番組をNHKが国際放送するようなら共産党はブラックアウトさせてテレビに表示させません。
そしてインターネットも同じです。中国は金盾(ゴールデンシールド)という検閲システムで、中国共産党を批判する書込みをすべて監視しています。
そんな状況じゃインターネット上で自由な言論はできません。そこでTorが必要になってくるわけです。
Torは身元を隠して匿名でウェブ上に投稿できます。その国の独裁者にとって都合の悪いことが書いてあったとしましょう。書いた奴をとっ捕まえて粛清したい。しかしTorを使っていると誰が書いたかわかりません。なので自由に言いたいことをネット上に書けるようになるわけです。
そして独裁政権を倒そうという機運が高まれば、独裁政権崩壊、民主化が実現するわけです。
そうすればアメリカ海軍が犠牲をはらって発電所にミサイルを打ったり、上陸したりする必要はなくなります。まさに「戦争で軍人の犠牲を伴う」ことなく、「言論の自由」を確保して「民主化」を実現したわけです。
Torはそのために開発されたものです。決して片山祐輔氏のように、犯罪で使われるものではありません。
コンピュータ上で動くものは、使いようによってはウイルスのように悪い働きをする一方、ほとんどの場合は人間にとって有益になります。
Torも開発者の意図通り正しく使えば、自分が気に入らいない国民を徹底的に排除している社会主義・共産主義の独裁者を倒す力もあるわけです。
Torは西側諸国の普遍的価値「自由主義、民主主義、法の支配」を世界中に拡散させるために生まれてきたものです。それはすなわち言論の自由を確保し、第三者による監視から身を守るためのものです。
Torは汚名を被っていますが、アメリカ海軍が言論の自由を確保するために開発したことは、教養ある人なら知っておくべきです。