きんざいの好著、数理ファイナンスの歴史の評価

きんざいの本はほぼハズレがないのだが、そんな中でも久々に良い本を見つけた。

早稲田理工の数理学科を卒業後東京銀行に入って以来ずっと金融工学や投資工学の道を歩んできた人がまとめた本だ。

この本の特徴は単なる理論や技術を解説したものではないということ。

例えばノックアウトオプションをプライシングしたいというのなら他にもいい本はいくらでもあるし、むしろこの本はそういった特定の分野について実装できるように詳細に解説した本ではない。

金融工学というのは常に実務上の要請から発展してきた。リーマンショックがあってカウンターパーティーリスクというのを考慮しなければならないからCVAというものが出てきた。またLiborマーケットレートモデルからOISモデルで割り引くようにも変わってきた。

このように金融工学の理解のためには、なぜそれまでの理論では不十分だったか、どのような要請があってより発展したものが生まれてきたのかを理解しなくてはいけない。特に実務に携わっている人ほどこの辺は痛いほどよく知っている。

この本ではまず第一次文献である論文にあたることを基本としている。第一次情報がすべてだからだ。

そして金融工学というのも、経済学で言う一般均衡理論を大前提として成り立っている一分野に過ぎないということもしっかり解説してある。金融工学の特定の分野にスポットライトを当てた他の本はこのあたりのことは完全にすっ飛ばしていて書いていない。

非常に広い大きな視点から金融工学というものを俯瞰するのにこれほどまでしっかり書かれた本はない。

社会人としてこの分野をやっているのなら業務上でこういったことは教えられたり否応なく知ることにもなる。だがお勉強として金融工学をやっている学生にはこのような視点を得ることは難しいだろう。

この本は就活を考えている学生が勘違いをしないためにも有用だし、社会人になって日頃の業務に忙殺されていて体系的な理解ができていないひとが知識を整理するためにも大いに役立つ。

値段は5000円以上と高いが、ある程度その分野の勉強が進んでくると5000円未満の本ではまったく役に立たない。1万円以上のハンドブックでないと使い物にならないくらいだ。

値段が高ければいいというものではなくて、もちろん個人出版の中には数万円するのに何の価値もない駄本がけっこうあるので、それなりにしっかりした出版社が出してる本限定。きんざいのようにしっかりした出版社かつ高価な本を買っておけば間違いない。

この本は上製本ということがきんざいのウェブページでわかっていたので安心して買えた。中には9000円もするのにソフトカバーとかもあるので。

実務で金融工学をやってる人なら斜め読みでもだいたい内容は理解できる。だがこの本は精読してこそ新たな発見がある。

しっかり数式を用いて解説してくれているがはっきりいってこの数式だけで理解できたら天才だ。すでにその分野を学習済みの人が「そういやこんなのもあったな」と確認できる用に用意されている数式である。初学者がこの数式だけで理解できるように書かれたものではないので注意。だから初学者が数式を理解できないのは当然だ。もし理解したかったら他の本でしっかり理論の部分を勉強する必要がある。でもそうしていると金融工学はあまりにも一分野のスペクトルが狭すぎて一体自分はどこを勉強しているのか位置づけがわからなくなってくる。そういうときにこの本を読むことに価値がある。